農園型から自社内の障害者雇用組織で400種類超の業務を担う組織になるまで――エス・エム・エスの障害者雇用のあゆみ
エス・エム・エスは2018年、社内の業務を引き受ける障害者雇用の組織(現在の「シェアードサービスグループ」)を立ち上げました。
雇用を始めた当初は農園型サービスを併用していましたが、2020年に雇用を完全に内製化。いまでは約90名のメンバーが、人事・経理から端末のキッティングまで400種類を超える業務を担っています。
「業務の切り出しが難しい」という理由で農園型を活用していた組織が、なぜ400種類を超える業務を行うまでに成長できたのか。業務切り出しをどう広げ、どう乗り越えたのか。
複数の企業で障害者雇用の組織づくりに携わってきた、シェアードサービスグループ責任者の佐々木一哉とともに、これまでのあゆみを振り返ります。
■ 記事監修者
- 株式会社エス・エム・エス シェアード推進部 シェアードサービスGr 責任者 佐々木 一哉
- 不動産業界を経て、株式会社メイテック、株式会社ビズリーチにて人事および障害者雇用チーム・特例子会社の立ち上げに従事。2023年より株式会社エス・エム・エスに入社し、障害者雇用グループの責任者として3年間で80名以上を採用。精神・発達障害のあるメンバーが9割を占める集合配置型組織を牽引し、500種類以上の業務切り出しと全社の生産性向上に貢献している。
2018年、農園型雇用を併用して障害者雇用をスタート
エス・エム・エスで障害者雇用を推進し始めた当初は、社内組織(現・シェアードサービスグループ)での法定雇用率充足をめざしていました。
そんな中で、法定雇用率の引き上げや事業成長による従業員数の伸長により、社内雇用だけでは法定雇用率が満たせなくなっていきました。そこで、農園型雇用サービスを併用する方向に舵を切りなおします。
社内採用・受け入れは継続的に行っていたものの、当時は社内で任せられる業務がかなり限られており、業務の切り出しや定着に関するノウハウ、支援人数もまだまだ足りない、という実態でした。
障害者雇用の対象となる方の社内雇用者数を見てみると、採用はかなり難航していたようですね
事業に貢献できる組織を。障害者雇用の組織作りに再チャレンジ
2020年になり、事業貢献度の高い障害者雇用組織をつくる方針が改めて発表されたことが、シェアードサービスグループの転機となりました。 所属社員は、2020年4月の20名規模から2022年4月の40名規模にまで増員されます。
この頃は組織拡大をめざして、当事者の障害理解よりも業務に見合うスキルがある(と思われる)方を優先して採用していく、という採用活動だったようです
増員に伴い、2021年8月には各部署から業務の依頼ができる「業務依頼フォーム」が設置されました。
社内イントラネットから誰でも依頼できるこのフォームの登場により、シェアードサービスグループへの業務委託数はさらに増えていきます。
フォームで一定の情報をキャッチアップできるため、事前に必要情報を把握した上で、業務を受託できる環境が整備できました
事業部側にも「切り出し」を意識づける依頼フォーム作り
現在も各部署とシェアードサービスグループの架け橋として定着する、業務依頼フォーム。フォームを活用した実際の業務切り出しフローは以下の通りです。
上記の流れをスムーズにするため、フォームの設問にも工夫があります。例えば、業務の依頼背景を記載する欄を見てみましょう。
目先の目的だけでなく、事業部でどういったことを実現したいからシェアードにお話をいただくのか、という点まで言語化して入力してもらっています
上記とあわせて、マニュアルの有無や作業の流れも委託する側が記載します。自分たちの言葉で言語化することで、どこまでがフローとして定まっているのか、マニュアルに落としきれないものや、都度判断が必要になるものは何かなど、現状を棚卸ししながら記入できます。
このフォームを活用したシェアードサービスグループへの依頼は、過去5年間で600件を超えました。スポットで発生した依頼を除き、現在も続いている業務は400種類以上にのぼります。
このフォームの活用が社内で根づいていたため、着任してから3年間はシェアード側から仕事をもらいに行ったことは一度もありません
退職が続いた2年間。ミッションの言語化と採用の立て直し
業務の委託依頼が数多く集まる一方で、組織の内側にはいくつかの課題が残っていました。ひとつ目が、サポート人材の不足です。
2023年時点、シェアードサービスグループは50名規模まで拡大していましたが、メンバーを支える支援担当者は2人のみ。 他社で障害者雇用の組織拡大に携わってきた、グループ責任者の佐々木は当時をこう振り返ります。
他社だと、障害のある社員5〜10人に1人はジョブコーチ的な支援者がいる想定でした。その基準に照らし合わせると、50名に対して2人はかなり少ないですよね
佐々木の着任後、ジョブコーチなどの支援者は5人に増えたものの、課題は人手だけではありません。
ふたつ目の課題は、障害者雇用を手探りで行ってきたからこそ、組織のミッションがないまま人員が増えてしまったことでした。
当時、メンバー個々人に業務をこなすスキルはあっても、もらった仕事を言われたとおりにこなしている状態でした。組織としてのミッション・ビジョン・バリューを定める必要があったんです
そこで佐々木が最初に取り組んだのが、組織としてのミッションを定め、向かう方向を定めることです。
シェアードサービスグループは、各部署のノンコア業務に関わるオペレーション工数を減らすことをミッションとする。事業部がコア業務に集中できる環境を提供することを最優先のバリューと位置づけました
メンバーに求めるのは、スキルとミッション・ビジョンへの共感
組織の意義やミッションを定めたことで、メンバーに求める資質にも変化が生まれました。
業務スキルも大切ですが、シェアードサービスグループのミッションを自発的に達成するスタンスを持つ方と一緒に働きたい、という思いが強くなっていきました
メンバー自ら業務改善アクションができ、かつそれをプラスと捉えられるよう、これまでシェアードサービスグループ内で活用していた評価制度を再整備。 メンバーそれぞれが「何のために、どういった意義でこの作業をしているのか」を明確にし、自発的にフローを変える提案をしやすい環境を整えていきました。
組織の過渡期で見えた採用活動の変化
一方で、評価の仕組みを大きく変えたことで、自身の着任から2年間は退職が相次いでしまった、と佐々木は振り返ります。
組織の過渡期は、どうしても人が離れていってしまうタイミングなので致し方ないのですが…歯がゆい思いをしましたね
この経験を経て、現在シェアードサービスグループでの採用面接では3つのポイントを重点的にヒアリングするようになった、と佐々木は言います。
まず、会社や組織のミッション・ビジョン・バリューに共感できるか。次に、依頼したい業務に必要なスキルがあるか、最後に自身の障害特性とその対処法を本人が把握できているか、の3点です
この3点はどれが欠けても長期的な就労につながりづらくなってしまうため、いずれも大切な基準として重視しています。
とはいえ、今はスキルよりも自己理解の深さを重視して採用することが多いです。スキルは入社した後でも身につけられるので。自分自身で不調を訴えられる・対処法を考えられて言語化できる方だと、こちらの支援の仕組みも有効に働きます
組織とのマッチングという点では、選考前に3日間の職場体験実習を設け、本人と組織の双方が一緒に働くイメージを確かめることをステップとしています。 その際は採用からオンボーディングまで、同じメンバーが担当するため、面接で得た情報をそのまま入社後のフォローに生かしています。
組織のミッションに対して目線がそろったことで、シェアードサービスグループ所属社員は2024年4月に64名、2025年7月には81名に達し、着任から3年間の採用人数はのべ90名を超えました
業務の理解度が上がる「担当制」の組織再編。事業部との密な連携を実現
評価基準や採用活動の立て直しと並行して、業務の進め方とメンバーの配置も見直しました。
それまでは、各事業部から受けた業務を、業務量に応じて都度メンバーに割り振っていました。
急な業務依頼にも対応しやすいというメリットがある一方、メンバーにとっては業務の全体像が見えづらく、自分の仕事がどの部署の何に役立っているのかが伝わりづらい状態でした。
長期的な視野の育成がしづらい点もあり、定着にもマイナス要素として働いていたように感じます
そこで、メンバーを各事業部ごとに担当として配置する体制に変更しました。中~長期的な関わりが生まれることで、委託する側の事業部との接点も自然と増えていきます。
シェアードサービスグループには、他組織の業務を受託する「業務プロセス実行・改善」の他に、「基盤構築」「業務プロセスマネジメント」という2チームも存在します。
「基盤構築」には採用・オンボーディングや定着・育成のチームが、「業務プロセスマネジメント」にはプロセスデザインやフレックス・サポートのチームが属し、実務チームを支えています。
障害のある社員がリーダーを務めるチームは、現在17チーム中5チーム。リーダーを目指す社員には全4回の育成研修を用意し、17項目の習得指標で成長を週単位で確認しています。
最大3ヶ月のトライアル勤務を経て事業部へ異動する道もあり、現在は15名の障害のある社員が事業部に配属されて働いています。
400種類超の業務を回す仕組み。タスクの細分化とマニュアルの一元化
シェアードサービスグループが担う400種類超の業務のうち、7割は契約管理や人事労務、特定保健指導のデータ加工といったデジタル・データ系の業務です。
残りの3割は、端末のキッティングや印刷・発送代行など、手を動かす作業系の業務です。事業部のフロアに出向いて捺印を行う、社内出張のような業務もあります。
約90名でこれだけの業務を回すには、脱属人化が欠かせません。抜け漏れを防ぐために、マニュアルを一元化した上でタスクを再分解し、再現性を高めています
以前は、マニュアルを部署や個人がそれぞれ管理していたため、情報の抜け漏れが多く発生していました。 現在は、すべてのマニュアルをマニュアル作成ツール「COCOMITE」に画像や動画付きで集約。業務全体を5〜15分単位のタスクに細分化し、「Bizer team」というツールで見える化して管理しています。
同時に、請け負っている業務の手順の見直しも始めました。依頼時の指示どおりに進めていた業務には、効率化の余地が残るものもあります
手順を組みなおす際は、改めて部署にヒアリングしながら進めます。 地道な作業ですが、業務への理解が深まるにつれて納品の精度が上がり、本来委託されていた業務の前後の関連業務まで任されるようになる、という変化も生まれました。
こうしたツールの構築や改善を担っているのは、障害のある社員自身です。改善すべき工程に気づいたメンバーがツール上のコメントでチームに共有し、自らマニュアルを更新しています
かつては委託元からの依頼どおりに仕事をしていた組織でしたが、いまはメンバーひとり一人が『昨日よりよくする』を合言葉に改善を続けています
組織として大切にしているのは『配慮はするが、遠慮はしない』という姿勢とのこと。障害を理由に、品質や納期で妥協しない。その両立を、プロとしての仕事の前提に置いて改善を続けています。
外注業務の内製化で年間約6千万円のコストを削減
シェアードサービスグループによる業務の内製化で、コストを削減できた事例を紹介します。
最もコストを削減できた業務は、介護事業者向けサービスで使うタブレット端末のキッティングでしょうか。内製化で年間約6千万円の外注費を削減しました
きっかけは、年間1億円を超える外注業務を発注していた事業部から内製化を打診されたこと。業務内容を精査したところ、シェアードサービスグループで対応できると判断し委託となりました。
この事例以外にも、シェアードサービスグループで対応可能と思われる業務は今も積極的に請け負っています
「誰でも働き続けられる環境」を。職場の配慮と体調の可視化
シェアードサービスグループのメンバーには多様な障害や特性を持つ方がいます。そのため、誰でも無理なく働ける環境作りに積極的に取り組んできました
オフィスには、刺激を減らして集中しやすい環境を整えています。パーティションで視界を遮る集中ブースは10席あり、そのうち2席は四方を囲った高遮断ブースです。
騒音や熱が出る複合機のエリアは壁で仕切り、体調がすぐれないときに横になれるリフレッシュルームも設けました。
他にも、耳栓の着用を認めたり座席の配置を調整したりと、本人の特性に合わせた個別対応をしています。年6日の通院休暇で、治療と仕事の両立を支援する仕組みもあります
心身の変動にいち早く気づく。不調を早期発見する定着支援の仕組み
障害者雇用の定着支援において、メンバーの体調の変化に気づくことは大切です。しかし、上司の経験や主観に頼るマネジメントでは、不調の兆しを見逃すおそれがありました
そこで導入したのが、体調管理ツール「キモチプラス」です。社員は日々のコンディションを記録し、数値として見える化します。
そのデータをもとに面談することで、本人と上司が同じ情報を見ながら話せるようになり、不調のときも早めに声をかけられるようになりました。 精神科医などの専門家にオンラインで相談できるサービスも利用できます。
個別面談は目的と役割で頻度を決めて実施。メンターとの対話で不安を軽減
面談は、入社当初限定のものも含めて主に3種設定しています。実施頻度も面談の対応者も目的に合わせて異なります
面談の頻度は、役割ごとに異なります。まず入社後1ヶ月間は、専門チームがオンボーディングを担当。入社後は、面談の間隔を毎日、隔日、週1回と段階的に空けていきます。
そして、チームへの配属後は、業務進捗や体調の変化を把握するためのチームリーダーとの面談が月2回。中~長期的なキャリア形成は、月1回の「SV面談」でフォローしていく仕組みです。
3つの定期面談とは別に、評価者ではない先輩社員がメンターとして毎日15分話を聞く施策も実施中です。入社90日・120日・180日の節目には振り返りを行います
障害のある社員がAIで自ら生み出した、定着を促進する仕掛け
組織が80名規模へ急拡大した時期には、一人ひとりが抱える不安にどう向き合うかが課題になりました。
そこで動いたのが、立ち上げ当初から在籍する障害のあるベテラン社員です。生成AIとGoogle Apps Script(GAS)を使って、独自の施策を生み出しました
そのひとつが、「6ヶ月後の自分」から今の自分に宛てた、励ましの手紙を生成AIで作るワークショップ施策「未来レター」です。
不安を希望に転換したいという思いから生まれました。未来の自分から前向きなメッセージが届くため、入社3ヶ月目の定着の壁を越える支えにもなっています
同じ社員が、日々の小さな貢献を投稿し合い、称え合う社内SNSポータル「#クレド」も手がけました。
投稿から3秒で通知が届き、ハートが舞う視覚的な演出で他者からの小さな感謝を受け取ることができます。
この施策の効果には、帰属意識と自己肯定感の向上、組織文化の醸造、伝播…さまざまな側面があります。しかし最も効果的なのは『心理的安全性の確立』だと感じますね
これまでのあゆみが結実した、JEED理事長賞優秀賞やエクセレントカンパニーの受賞
こうした取り組みが評価され、2026年9月、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の令和8年度障害者雇用職場改善好事例で、機構理事長賞 優秀賞を受賞しました。(JEEDニュース第341号)
募集テーマ「デジタル技術の活用」に対して評価されたのは、体調の可視化と早期介入、業務の細分化、生成AIを活用した不安の言語化の3点です。
また、障害者雇用における取り組みが評価され「東京都エクセレントカンパニー」の表彰や、「ハートシティ東京」の賛同企業としても認定されました。
2030年には、約200名規模への成長をめざして
現在のシェアードサービスグループは、障害者手帳を持つ社員85名と支援スタッフ9名で構成されています(2026年4月時点)。 障害のある社員の約9割は精神障害・発達障害のある方で、ほかの社員と同じ本社オフィスで働きます。
この集合配置型の職場づくりを参考にしようと、見学に訪れる企業様もいらっしゃいます。私たちの取り組みへ関心を寄せていただけるのは、大変嬉しい限りですね
2030年に向けては、約200名規模への拡大をめざしており、組織の役割も段階的に広げていく計画があります。
- 2027年:
外部のBPO組織と並ぶ品質を実現する - 2028年:
業務改善や見える化を、複数の事業部へ提供できる体制をつくる - 2029年:
事業部の重要課題の解決にも貢献できる組織になる
ノンコア業務の担い手から、コア業務にも関われる組織へ育てていくのが、2030年までの目標です
これから業務切り出しに取り組む企業の方へ
最後に、これから障害者雇用で業務切り出しに取り組む企業へのアドバイスを聞きました。
いちばん大切なのは、この会社の中でどういう役割を果たす組織になりたいのかを決めること。あとは、その期限の設定ですね。ゴールが決まれば、そこに向けた手段や期間も決められます
そうは言っても、経験がなければ理想像は描きづらいもの。
- 自社で障害者雇用組織がどうあるべきか、イメージがつきづらい
- 切り出せる業務や任せられる業務が見当たらない
- どこから手をつけるべきかわからない
エス・エム・エスは、シェアードサービスグループで培った知見をもとに、法人向け障害者雇用支援サービス「かべなし」で企業の障害者雇用を支援しています。
業務切り出しの進め方から採用、入社後の定着まで、自社で実践してきた方法をご提案いたします。
就労移行支援事業所の管理者経験者監修のもと、正しい法令知識と採用・定着などの実務に役立つ情報を発信中です。企業と障害のある方をつなぐ立ち位置で、双方がWin-Winとなる情報提供を心がけています。