障害者雇用の法定雇用率充足をめざして採用を進める中で、現場でのミスマッチや想定外の早期離職に直面し、定着に難航している人事担当の方は多いのではないでしょうか。
定着率を向上させるためには、採用活動そのものの見直しだけでなく、入社前の業務切り出しから入社後の現場フォローまで、一連のプロセスを途切れさせずに体制を構築することが重要です。
この記事では、客観的なデータに基づく離職の実態と理由を分析し、定着率を改善するための具体的な対策を解説します。自社リソースでの対応が難しい場合の解決策も踏まえて提示しますので、ぜひご一読ください。
・1年後の定着率は約58%。精神・発達障害など特性により離職理由は大きく異なる
・入社前の業務切り出しから現場フォローまで、一気通貫の体制構築が定着の鍵
・社内リソースだけで解決が難しい場合は外部専門機関・サービスも活用すべし
障害者雇用における離職率・定着率の実態
障害者雇用枠においての離職は、主に採用した方が特性と職場環境・業務内容のミスマッチにより継続就業できず、一定期間内に退職してしまうパターンが多く見られます。
自社の定着率を改善するためには、まず世の中の客観的な数値を把握し、現状の立ち位置を測ることが重要です。ここでは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の調査データをもとに実態を解説します。
就職後1年時点の全体的な定着率
JEEDの調査によると、障害者雇用における就職後1年時点の定着率は以下のようになっています。
- 障害者全体の1年定着率
58.4% - 離職のピーク
入社後3ヶ月〜半年以内に集中しやすい傾向
一般労働者の入社後1年定着率が概ね80%台後半(※新規学卒者等を含む厚生労働省データ参考)であることを踏まえると、障害者雇用においては採用後の「定着支援」の実務ハードルが非常に高いことがデータからも読み取れます。
参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)|「障害者の就業状況等に関する調査研究」(平成29年)
障害種別ごとの定着率の違い
定着率は一律ではなく、障害の種別によっても明確な違いが見られます。各障害種別ごとの就職後1年時点の定着率は以下の通りです。
| 障害種別 | 就職後1年時点の定着率 | 傾向のポイント |
|---|---|---|
| 発達障害 | 71.5% | 業務内容や指示系統が明確であれば、比較的定着しやすい |
| 知的障害 | 68.0% | ルーティン業務への適性が高く、着実な定着が見込める傾向 |
| 身体障害 | 60.8% | 物理的な環境整備や、加齢に伴う体調変化への配慮がカギとなる |
| 精神障害 | 49.3% | 環境変化へのストレスから体調を崩しやすく、定着率が最も低い |
表が示す通り、精神障害のある方の定着率に課題がある一方で、発達障害や知的障害のある方は比較的高い水準にあります。自社がどの特性の方を採用するかによって、社内で求められる配慮や体制構築の難易度は大きく異なります。
企業規模・業種別に見る定着傾向
定着率は、企業の規模や受け入れ体制の充実度、業種によっても左右される傾向があります。
- 大企業
産業医や専任の担当者を配置しやすく、定着率が安定しやすい。 - 中小企業
人事担当者が実務を兼任していることが多く、現場のフォローが手薄になり離職につながりやすい。 - 定型的な業務は定着しやすい
事務職や定型的な軽作業は定着しやすい一方、対人折衝が多い業種や業務フローが頻繁に変わる環境ではミスマッチが起きやすい。
特に中小企業においては、工数不足やノウハウ不足をどのように補うかが、定着率向上の大きな課題となります。
障害のある従業員が離職する主な理由
定着率を改善するには、なぜ離職が起きてしまうのか、その根本的な理由を特性ごとに分析し、自社の受け入れ体制と照らし合わせることが求められます。
【精神・発達障害の方】人間関係や体調悪化
精神障害や発達障害のある方は、環境の変化や対人コミュニケーションに対して強いストレスを感じやすい傾向にあります。
そのため、業務そのものの難易度よりも、周囲との関係性や健康管理が離職の引き金になるケースが多く見られます。具体的には以下のような要因が挙げられます。
- 職場の雰囲気・人間関係
暗黙のルールや曖昧な指示によるストレスの蓄積 - 体調悪化
環境変化による疲労から、継続的な出勤が困難になる - 自己判断による抱え込み
不調を周囲に相談できず、限界を迎えて突発的に離職してしまう
これらの要因を防ぐためには、業務上の指示を明確にするだけでなく、日々の体調変化を拾い上げる仕組みが必要です。
【身体・知的障害の方】業務遂行上の課題や労働条件
身体障害や知的障害のある方の場合は、作業環境や評価制度といった、より実務的な要因が離職に直結しやすい傾向にあります。
- 業務遂行上の課題
自身のスキルに対して業務が難しすぎる、あるいは単調すぎてやりがいを感じられない - 労働条件への不満
業務幅が限定されることで昇給や評価の機会が少なく、モチベーションが低下する - 物理的な職場環境
通勤の負担や、社内設備のバリアフリー化が不十分であることによる疲労
本人の能力に見合った適切な業務の割り当てと、長期的なモチベーションを維持するための労働条件の見直しが定着のカギとなります。
現場の無意識的な配慮不足によるすれ違い
人事部門が十分に配慮しているつもりでも、実際に業務を行う現場部署との間で認識のズレが生じ、結果として離職に繋がるケースが存在します。
【※監修者調整用(仮エピソード)】
ある企業では、精神障害のある方を一般事務として配属しました。現場の管理者は「無理をさせて体調を崩させてはいけない」と配慮するあまり、極端に業務量を減らし、必要最低限のコミュニケーションしか取りませんでした。結果として、本人は「期待されていない」「職場に自分の居場所がない」と疎外感を感じ、入社3ヶ月で離職してしまいました。
よかれと思った配慮が、当事者にとっては過剰な配慮(アンダーマネジメント)となり、逆にモチベーションを削いでしまう実務上の典型的なミスマッチ例です。
これを防ぐには、人事と現場が連携し、適切な配慮のラインを事前にすり合わせておく必要があります。
採用前の業務切り出し不足とマッチングのズレ
早期離職の原因を探ると、入社後のトラブルではなく「採用前」の準備段階に問題が潜んでいるケースが少なくありません。以下が代表的な2つの原因です。
- 職務内容の曖昧さ
「とりあえず法定雇用率を満たすために採用し、任せる仕事は後で決めよう」という見切り発車 - 指揮命令系統の未整備
誰が業務を教え、誰が体調面の相談に乗るのかが不明確なまま配属してしまう
これらが曖昧なまま採用活動を進めると、選考時と入社後で期待値のズレが生じます。入社後に「任せる仕事がない」といった事態に陥り、歩留まりの低下や早期離職に直結してしまいます。
離職を防ぎ定着率を向上させる一連の対策
離職を防ぐためには、採用活動や入社後の面談といった単発の施策ではなく、採用前から定着後まで一気通貫した体制づくりが必要です。ここでは具体的なステップを解説します。
【採用前】特性に合わせた適切な業務切り出し
採用活動を始める前の「業務の棚卸し」が、定着の成否を分ける最初のステップです。現場の業務を細分化し、特性にマッチするタスクを抽出します。
- ノンコア業務の洗い出し
各部署の定型業務や、コア人材の負担になっている業務をリストアップする - マニュアル化と視覚化
作業手順を明確にし、誰がやっても同じ結果が出るように整理する - 特性とのマッチング
切り出した業務の性質(例:高い集中力が必要、電話対応は発生しない等)に合った人物像を定義する
誰がどのように進める業務なのかを事前にクリアにしておくことで、入社直後の混乱を未然に防ぐことができます。
【採用時】面接での配慮事項のすり合わせ
面接は、企業がスキルを評価するだけでなく、候補者と「長く働くための条件」をすり合わせる場として活用します。
- 合理的配慮のヒアリング
「何が得意か」だけでなく、「何が苦手で、どのような配慮があれば能力を発揮できるか」を具体的に確認する - 通院状況と服薬管理
現在の体調の安定度合いと、通院頻度等を確認し、勤怠の安定性を測る - 業務内容の透明化
実際の作業環境や、任せる業務の範囲を隠さずに伝える
選考の段階で実際の環境を正確に伝えておくことで、入社後の期待値ギャップを最小限に抑えられます。
【入社後】現場の障害理解と定期面談の実施
配属後は、現場が主体となってサポートできる体制づくりと、不調を早期に発見するためのモニタリングが必要です。
- 現場向けの事前研修
障害特性や具体的なコミュニケーションの取り方について、受け入れ前に現場社員向けの勉強会を実施する - キーパーソンの配置
業務上の指示を出す「業務担当者」と、体調や悩みを相談できる「生活・相談担当者」を分けて配置する - 定期的な1on1面談
入社直後は週1回、その後は月1回など、睡眠時間や疲労感といった生活リズムの変化を定点観測する
業務の担当者と相談窓口を分けるなど、本人がSOSを出しやすい心理的安全性を担保する工夫が定着率の向上に直結します。
【外部との連携】ジョブコーチなど専門機関の活用
自社内だけで課題を抱え込まず、公的機関や専門サービスのリソースを有効活用することも定着のポイントです。
- 地域障害者職業センター
専門的な職業リハビリテーションや、ジョブコーチ(職場適応援助者)の派遣を依頼する - 障害者就業・生活支援センター
就業面だけでなく、生活面や金銭面の課題に対するサポートを連携して行う - 就労移行支援事業所
採用元である事業所の支援員と定期的に情報共有を行い、本人の特性に応じた助言をもらう
専門家の客観的なアドバイスを取り入れることで、人事担当者と現場の負担を大きく軽減することができます。
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障害者雇用の離職・定着に関するよくある質問
Q. 定着支援の面談やフォローは、いつまで継続するべきですか?
A. 障害特性や個人の状況によりますが、少なくとも入社後1年間は手厚い定期フォローを継続することを推奨します。その後も、業務内容の変更時や季節の変わり目など、ストレスがかかりやすい時期には面談の頻度を増やすなど、柔軟な対応が必要です。
Q. 現場の担当者の負担を減らすにはどうすればよいですか?
A. 業務の指示系統をシンプルにし、マニュアルを動画や図解で視覚的にわかりやすくすることが有効です。また、人事が現場と障害のある従業員の間に入り、客観的な視点で調整を行う仕組み(第三者によるモニタリング)を取り入れることで、現場の心理的負担を軽減できます。
自社のみでの対応に限界を感じた場合の選択肢
ここまで解説した一連の対策を講じることで定着率は着実に向上します。しかし、専任担当者がいない一般的な企業において、これらすべてを自社単独で実行するには実務上のハードルが伴います。
定着支援を自社で完結させる実務上のハードル
採用から定着までの体制を内製化しようとする際、企業は以下のような課題に直面しがちです。
- 人事の工数不足
採用活動、現場との調整、助成金の申請、定期面談など、担当者の業務負荷が膨大になる - 専門知識の不足
精神障害や発達障害の多様な特性に対して、適切な配慮やマネジメントを自社のノウハウだけで判断することが難しい - 法定雇用率のプレッシャー
離職が続くと雇用率が低下し、採用活動を終わらせることができない負のループに陥る
離職が繰り返されることで現場の疲弊を招き、障害者雇用そのものが停滞してしまうケースも少なくありません。
特例子会社の設立など内製化が適している企業
一方で、潤沢な資本があり、専任のスタッフを複数名配置できる大企業であれば、特例子会社を設立して社内に完全にノウハウを蓄積する手法が有効です。
初期投資や運営コストはかかりますが、長期的に見ればグループ全体の法定雇用率算定に寄与し、確固たる雇用基盤を築くことができます。
外部の専門機関・エージェントを活用する選択肢
人的リソースが限られている企業においては、無理にすべてを内製化する必要はありません。障害者雇用に特化したエージェントやコンサルティングサービスを活用し、外部の知見を取り入れることが現実的な解決策となります。
プロのサポートを受けることで、社内の工数を削減しつつ、ミスマッチによる早期離職を効果的に防ぐことが可能です。
採用から定着までを伴走支援する「かべなし」
障害者雇用における、体制構築から定着までを一気通貫で進める選択肢の一つとして、「かべなし」のワンストップ伴走支援があります。
- STEP1:体制構築
貴社の課題をヒアリングし、障害特性にマッチする「業務の切り出し」やマニュアル作成、受け入れ環境の整備をコンサルティングします。 - STEP2:採用支援
単なる障害の有無ではなく、業務遂行に必要な「スキル」を重視した求職者をご紹介し、面接設定から同行まで実務を代行します。 - STEP3:定着支援
入社後も専門スタッフが定期面談を実施し、現場の不安解消や体調変化の早期発見など、定着に向けた課題解決に伴走します。
障害者雇用の早期離職に課題を感じている、あるいは新たに雇用体制を構築したいとお考えの人事ご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。貴社の状況に合わせた最適な対策をご提案いたします。
就労移行支援事業所の管理者経験者監修のもと、正しい法令知識と採用・定着などの実務に役立つ情報を発信中です。企業と障害のある方をつなぐ立ち位置で、双方がWin-Winとなる情報提供を心がけています。