障害者雇用の実務において、「エレベーターの設置や手話通訳の常駐を求められたらどうしよう」「どこまで対応すれば法律違反にならないのか」と、コストや現場の負担に不安を抱える人事担当者の方は多いのではないでしょうか。
合理的配慮の提供は法的義務ですが、必ずしも高額な設備投資が求められるわけではありません。既存のルールの柔軟な変更や、代替案の提示によって解決できるケースが多々あります。
この記事では、職場で求められる配慮の具体例と、対応が難しい場合の正しい断り方や代替案の出し方を解説します。現場の負担を抑えつつコンプライアンスを遵守するためのノウハウとしてご活用ください。
・合理的配慮は設備投資だけでなく、ルールの柔軟な変更などで対応できる
・要求に応じられない「過重な負担」の判断基準と、着地点を見つける代替案の実例
・ミスマッチを防ぐには専門エージェントの活用も視野に
合理的配慮はいつから義務化された?対象企業と基本概念
障害のある方を雇用する上で、企業は法律に基づく「合理的配慮の提供」が義務付けられています。「2024年から義務化されたのでは?」と混同されがちですが、分野によって施行時期が異なります。まずは法律の前提を整理しましょう。
雇用分野は「2016年」からすでに義務化
合理的配慮の提供義務は、対象となる分野によって義務化のタイミングが異なります。従業員の規模(大企業・中小企業など)に関わらず、すべての民間企業が対象です。
- 雇用分野:職場での労働者に対して
障害者雇用促進法に基づき、2016年4月1日から義務化 - 事業全般:顧客や取引先に対して
障害者差別解消法に基づき、2024年4月1日からすべての事業者に対して義務化
つまり、人事担当者が直面する「職場における従業員への合理的配慮」は、2024年を待たずしてすでに義務となっています。
そもそも「合理的配慮」とは何か
同じように能力を発揮し、同じスタートラインに立って業務に取り組めるようにするための業務上の必要な調整であり、他の社員に対する特別扱い、いわゆる優遇ではありません。
義務と努力義務の境界線
企業に求められる合理的配慮は、本人の要望をすべて無条件に叶えなければならないわけではありません。
配慮の内容は、「本人が求める必要な対応」であることと、企業側にとって「過重な負担にならないこと」のバランスで決まります。過重な負担にあたる場合は、代替案を提示するなどの建設的な対話が求められます。
参考:厚生労働省|雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮
不特定多数向けのバリアフリーとの違い
合理的配慮と混同されやすいのが、事前の環境整備、いわゆるバリアフリーです。この2つは対象者と実施のタイミングが明確に異なります。
- バリアフリー
不特定多数の障害者に向けて、あらかじめ行う設備投資のこと。例:自社ビル全体のエレベーター設置や段差の解消など - 合理的配慮の提供
特定の障害者からの個別の申し出に対して、事後的に行う対応のこと。例:車椅子を利用する新入社員のために、本人のデスクの高さを調整するなど
合理的配慮は、あくまで「いま目の前にいる従業員」の支障を取り除くための個別対応であり、必ずしも最初から大規模なインフラ改修を指すものではありません。
職場で求められる合理的配慮の具体例3分類
実際に職場で求められる配慮とはどのようなものか、厚生労働省などのガイドラインに基づく3つの分類に沿って、障害特性ごとの具体例を解説します。
【物理的環境】オフィス設備や動線の確保
オフィス内の設備や、ハード面における物理的な障壁を取り除くための配慮です。大掛かりな工事を伴わなくても実践できる項目が多くあります。
- 身体障害のある方に:段差へのスロープ設置・面接時の配慮
車椅子での来社に合わせて、1階の会議室への案内や段差への簡易スロープ設置を行う - 身体障害のある方に:座席・動線の確保
車椅子の回転スペースや、多目的トイレへのスムーズな動線を考慮してデスクを配置する - 視覚障害のある方に:視覚的配慮
よく通る経路の障害物を撤去し、PCに音声読み上げソフトを導入する
【意思疎通】ツール活用や指示の出し方の工夫
情報の伝達方法やコミュニケーションツールを工夫し、認識のズレを防ぐための配慮です。
- 身体・聴覚障害の方に:筆談や音声認識アプリの導入
聴覚障害のある応募者に対し、UDトーク(音声認識アプリ)や筆談ボードを用意する - 発達・知的障害の方に:テキストでの指示・マニュアルの視覚化
業務手順を視覚的なマニュアルに図解し、口頭だけでなくチャットなどのテキストで指示を出す
【ルール・慣行】勤務時間や休憩の柔軟な変更
既存の社内ルールに縛られず、お金をかけずに柔軟な運用を認める配慮です。精神障害や発達障害の方への対応として、特に多く求められます。
- 精神障害のある方に:短時間勤務やフレックスタイムの適用
定期的な通院や体調不良に合わせ、短時間勤務やフレックスタイム制、時差出勤を許可する - 精神・発達障害のある方に:休憩室の確保と小休止
パニックや過度な疲労を防ぐため、通常の休憩時間とは別に、別室や休憩室での小休止(クールダウン)を認める - 発達障害のある方に:感覚過敏への対応
聴覚過敏や視覚過敏のある方に対し、業務中のノイズキャンセリングイヤホンや、遮光用サングラスの着用を許可する
ルールの柔軟な変更は、コストをかけずに定着率を劇的に引き上げることができる有効な手段です。
要求に応じられない過重な負担の判断と代替案
障害のある方から求められた配慮事項が、自社のリソースや予算を大きく超えるケースもあります。その場合は、企業として対応を断ること自体は違法ではありません。しかし、正しい手順で「代替案」を提示し、妥協点を探る必要があります。
「建設的対話」とは、企業と障害のある方がお互いの状況を尊重しながら「どうすれば働きやすくなるか」を探るコミュニケーションのことです。歩み寄り、双方が納得できる最適解を共に探す姿勢そのものを指します。
判断基準となる5つの要素
求められた配慮が企業のキャパシティを超える「過重な負担」にあたるかどうかは、以下の5つの要素を総合的に考慮して客観的に判断します。
- 事業への影響の程度
本来の業務目的が損なわれないか - 実現困難度
技術的、あるいは物理的に導入が可能か - 費用・負担の程度
対応にかかるコストが経営を圧迫しないか - 企業の規模
企業全体の従業員数や事業規模に対して妥当な負担か - 財務状況
現在の企業の業績や財務の状況に余裕があるか
これらに照らし合わせて過重な負担と判断した場合、企業はただ拒否するのではなく、なぜ難しいのかを本人に説明する義務があります。
要求に応じられない場合の対応で役立つ3つの具体例
求められた配慮が過重な負担となる場合、企業は前述の「建設的対話」を通じて、別の方法で目的を達成できないか代替案を模索します。
ハード面や工数面での対応が難しい場合でも、ソフト面(ルールの変更やツールの活用など)で補えるケースが多くあります。ここでは3つの具体例を紹介します。
例1:物理的環境に関する配慮
- 要求
車椅子対応の多目的トイレを自社フロアに新設してほしい - 企業の負担
数百万の改修コストと工期がかかり、賃貸ビルの規約上も実現が極めて困難である - 代替案
自社フロアでの新設は難しいが、車椅子対応トイレが設置されている1階の別部署へ配置転換を行う、あるいは近隣の提携ビルのトイレを利用可能にするルールを整備する
例2:ルールの柔軟な変更に関する配慮
- 要求
満員電車が辛く体調を崩しやすいので、毎日11時出社・15時退勤の短時間勤務にしてほしい - 企業の負担
配属予定の部署はチームでのリアルタイムな連携が必須であり、コアタイムに全く参加できないシフトでは事業運営に支障が出る - 代替案
完全な短時間勤務は難しいが、週3日はテレワークを許可し、出社する2日のみラッシュを避けた10時出社(時差出勤)とする。また、出社時の小休止を認める
例3:意思疎通に関する配慮
- 要求
口頭での指示が理解しづらいため、すべての業務手順を私専用に動画マニュアル化してほしい - 企業の負担
現場の担当者がすべての業務を動画で撮影・編集することは、本来の業務を圧迫する過大な工数となり過重な負担である - 代替案
すべての動画化は難しいため、口頭で指示した後に必ずチャットで要点を箇条書きにして送信するルールにする。また、本人が既存のマニュアルにメモを書き込んで「自分用の手順書」を作成する時間を業務内に設ける
義務違反とみなされるNGな断り方
内閣府のガイドラインでは、建設的対話を行わずに一方的に配慮を断ることを義務違反としています。人事担当者が陥りがちなNGな断り方の理由は以下の通りです。
- 「これまで前例がないから」という理由で思考停止する
- 「他の社員も我慢している、特別扱いはできない」という理由で公平性の本質を誤認する
- 「予算がないから一切できない」と代替案(ソフト面の工夫)を出さずに拒絶する
できない理由を伝えるだけでなく、「これならできる」という着地点を共に探る姿勢が、法的リスクを回避する上で不可欠です。
参考:内閣府|障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針
障害者作業施設設置等助成金の活用
過重な負担の判断に迷った際や、どうしても設備改善が必要な場合は、国の助成金を活用できる可能性があります。
「障害者作業施設設置等助成金」を利用すれば、スロープの設置や手すりの取り付け、就労支援機器の導入にかかる費用の一部が支給されます。コスト面での負担を軽減する選択肢として、ハローワーク等の窓口に事前に相談することをおすすめします。
採用担当が面接だけで配慮事項のすり合わせをするのは困難
合理的配慮の本質は「建設的対話」ですが、これを採用面接の短い時間で、自社の人事担当者だけで完結させるのはかなりハードルが高いでしょう。
配慮水準に関するミスマッチのリスク
採用の場では、企業側が「どこまで配慮すべきか」を探る一方で、応募者側も「これを要求したら不採用になるのではないか」と遠慮し、本音を隠してしまうケースが多々あります。
その結果、双方の期待値がすり合わないまま入社を迎え、後になってから「配慮が足りない」「そこまでは対応できない」という不満が生じ、早期離職に直結してしまうリスクがあります。
第三者を交えた建設的対話のメリット
このミスマッチを防ぐためには、企業と応募者の間に客観的な「第三者(専門エージェント)」を交えることが有効です。
専門知識を持ったエージェントが間に入ることで、企業側は「自社で対応可能な配慮の範囲」を冷静に整理でき、応募者側も「長く働くために本当に必要な配慮」を正直に伝えることができます。結果として、入社後のトラブルを未然に防ぎ、定着率を劇的に向上させることが可能になります。
採用から定着までをワンストップで支援する「かべなし」
面接における配慮のすり合わせや、入社後の環境構築に不安を抱える企業様には、採用から定着までをワンストップでサポートする「かべなし」の伴走支援が現実的な選択肢でしょう。
かべなしでは、以下のステップで「配慮の最適解」を見つけるサポートを提供しています。
- ステップ1:体制構築
現場の業務をヒアリングし、過重な負担にならない範囲で自社で可能な配慮事項や代替案を事前に整理します - ステップ2:採用支援
単なる障害の有無ではなく、業務遂行に必要な「スキル」を重視して求職者をご紹介し、面接に同行して配慮水準のすり合わせを代行します - ステップ3:定着支援
入社後も専門スタッフが定期面談を実施し、配慮事項に過不足がないかのチェックや、現場との微調整に伴走します
「どこまで配慮すればいいのか判断が難しい」「面接でのすり合わせに自信がない」とお悩みのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。貴社と求職者の双方が納得できる、最適な環境づくりをご提案いたします。
就労移行支援事業所の管理者経験者監修のもと、正しい法令知識と採用・定着などの実務に役立つ情報を発信中です。企業と障害のある方をつなぐ立ち位置で、双方がWin-Winとなる情報提供を心がけています。