2026年の法改正に伴い、対象となる企業規模が拡大し、「自社がいつまでに何を対応すべきか整理できず、リソース不足に悩んでいる」という採用・労務のご担当者様は多いのではないでしょうか。
本記事では、障害者雇用促進法の基礎知識から、2026年7月に控える法改正のポイント、そして実務負担を抑えながら法対応を進める具体的なステップまでをわかりやすく解説します。
・障害者雇用促進法において企業が果たすべき「5つの義務」
・2026年の法改正内容と、自社の「雇用すべき人数」の計算方法
・義務違反によるリスクと、達成企業が活用できる支援制度
・障害者雇用を「組織力強化」に繋げるポイントと外部伴走支援の活用法
障害者雇用促進法とは?法律がめざす目的と理念
障害者雇用促進法(正式名称は「障害者の雇用の促進等に関する法律」)は、障害の有無に関わらず、誰もが能力を発揮し自立して働ける「共生社会(ノーマライゼーション)」の実現をめざす法律です。
企業に対して一定割合以上で障害のある方を雇用することを義務付けるとともに、障害を理由とした差別の禁止や、働きやすい環境を整えるための合理的配慮の提供を求めています。 この法律は単なるルールや罰則の枠組みではなく、多様な人材が活躍できる職場づくりを通じて、企業自身の組織力や生産性を向上させるためのガイドラインという側面もあります。
人事担当者が必ず押さえるべき、企業の5つの義務
・企業には雇用率達成を含む「5つの法的義務」が課せられている
・「合理的配慮」は2016年より完全義務化
・未達や報告漏れによる法的リスクを防ぐため、自社の体制点検が急務
1. 法定雇用率以上の障害のある方の雇用
企業には、常用雇用している従業員数に応じて、一定割合以上の障害のある方を雇用する義務が課せられています。
これを「法定雇用率制度」と呼び、要件を満たす規模の企業は、自社の全従業員数に法定雇用率を掛け合わせて算出された人数の障害のある方を雇用しなければなりません。
法定雇用率の算定対象となるのは、原則として身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれかを所持し、かつ一定の勤務時間を満たす労働者です。
後述する2023年の法改正に基づき、2024年4月には2.5%、2026年7月には2.7%へ段階的に引き上げられるため、多くの企業で新たな採用計画の策定が急務となっています。
2. 障害を理由とした差別的取扱いの禁止
募集・採用から入社後の待遇に至るまで、障害を理由とした不当な差別は法律で固く禁じられています。
具体的には、以下のようなプロセスにおいて、能力や適性に基づく平等な機会を提供することが義務付けられています。
- 募集・採用
障害があることのみを理由に、応募を拒否したり採用を不採用としたりすること。 - 賃金・待遇
同じ業務を行っているにも関わらず、障害を理由に給与を低く設定すること。 - 配置・昇進
合理的な理由なく、研修の機会を与えなかったり、昇進の対象から外したりすること。
企業は、職務遂行能力と適性をフラットに評価する採用・評価基準を構築する必要があります。
3. 合理的配慮の提供は、2016年より完全義務化
事業主は、障害のある従業員が職場で働く上で障壁となる事柄を解消するため、過重な負担にならない範囲で「合理的配慮」を提供する義務があります。
以前は民間企業において努力義務とされていましたが、法改正により2024年4月1日からは すべての企業において完全義務化 されました。 実務においては、個別の障害特性に応じた対応が求められます。
- 物理的環境の配慮
車椅子で移動しやすい動線の確保や、多目的トイレの設置など。 - コミュニケーションの配慮
聴覚の障害がある方に対する筆談の導入や、知的・精神障害のある方に対する図解入りマニュアルの作成など。 - 勤務条件の配慮
通院のための勤務時間調整や、体調に合わせた休憩時間の柔軟な設定など。
ポイントは、企業側が一方的に決めるのではなく、従業員本人との対話を通じて双方が納得できる配慮を決定していくプロセスにあります。
参考:厚生労働省|合理的配慮指針(雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保~)
4. ハローワークへの状況報告と解雇届の提出
一定規模以上の企業は、毎年、障害のある方の雇用状況を行政へ報告する義務があります。
- ロクイチ報告(障害者雇用状況報告)
毎年6月1日時点での障害者雇用状況を集計し、翌月の7/15までに管轄のハローワークへ提出する必要があります。法定雇用率に基づく障害者雇用義務が発生している企業が対象です。 - 解雇届の提出
障害のある方を解雇する場合(本人の自己都合退職を除く)は、速やかにハローワークへ解雇届を提出しなければなりません。
これらは企業のコンプライアンス状況を行政が把握するための重要な手続きであり、正確かつ期日通りの運用が不可欠です。
5. 障害者職業生活相談員の選任
企業内で障害のある方を「5名以上」雇用している場合、専門の相談窓口として「障害者職業生活相談員」を選任する義務があります。
相談員は、厚生労働省(または独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構など)が定める資格要件を満たすか、専用の講習を修了した従業員の中から選任します。
選任された相談員は、障害のある従業員が抱える業務上の悩みや、職場での人間関係、生活面の課題について相談に乗り、定着を支援する重要な役割を担います。
【2026年】最新の改正ポイントと自社への影響は
・法定雇用率は2026年7月に「2.7%」へ引き上げられ、対象企業も拡大する
・まずは自社の「雇用すべき人数」を正確に把握しておく
・週10〜20時間未満の短時間労働者も「0.5人」として算定できる
法定雇用率の引き上げと対象企業規模の拡大
民間企業における法定雇用率は、2024年4月に2.5%へと引き上げられましたが、 2026年7月にはさらに「2.7%」へと引き上げられます。
この引き上げに伴い、雇用義務の対象となる企業の規模も拡大します。 厚生労働省の発表等に基づくと、 2026年7月以降は「従業員数37.5人以上」の企業が対象 となり、これまで対象外だった中堅・中小企業も新たに法対応を求められることになります。
自社は対象?「雇用すべき人数」の算出ルール
自社が雇用すべき障害のある方 の人数は、「常用雇用労働者数 × 法定雇用率(2.7%)」で計算し、小数点以下は切り捨てとなります。
計算にあたっては、従業員の労働時間や障害の程度によって「1人」をどのようにカウントするかが細かく定められています。 以下のカウント数一覧表を用いて、自社の状況を正しく把握しましょう。
【障害者雇用のカウント数一覧表】
| 労働時間 | 30時間以上 | 20時間以上30時間未満 | 10時間以上20時間未満 |
|---|---|---|---|
| 身体障害 | 1 | 0.5 | - |
| 重度身体障害 | 2 | 1 | 0.5 |
| 知的障害 | 1 | 0.5 | - |
| 重度知的障害 | 2 | 1 | 0.5 |
| 精神障害 | 1 | 0.5(※) | 0.5 |
※精神障害者については、新規雇入れから一定期間等、条件を満たす場合は週20時間〜30時間未満でも「1人」としてカウントできる特例措置があります。
参考:厚生労働省|障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための 法律等の一部を改正する法律案の概要
短時間労働者の算定追加などその他の変更点
近年の法改正における重要なポイントとして、「特定短時間労働者」の雇用率算定への追加が挙げられます。
従来、週20時間未満の労働は算定対象外でしたが、多様な働き方を促進するため、 「週10時間以上20時間未満」で働く重度の身体・知的障害のある方、および精神障害のある方について、「0.5人」として算定できる ようになりました。
これにより、長時間の勤務が難しい方でも雇用しやすくなり、企業側にとっても業務の切り出しや採用の選択肢が広がっています。
義務違反によるリスクと、達成企業が得られる支援制度
・未達成の場合、不足1人につき「月額5万円」の納付金や企業名公表のリスクがある
・基準を達成すれば「障害者雇用調整金」などの金銭的支援が受けられる
・財務的、社会的リスクを回避するため、積極的に推進する場合は助成を受けることも可能
未達成時は「納付金」「行政指導」などのペナルティ
法定雇用率を達成できなかった場合、企業は金銭的な負担と社会的信用の低下という2つのリスクを負うことになります。
- 障害者雇用納付金の徴収
常用雇用労働者100人超の企業で雇用率が未達の場合、不足する障害のある方1人につき月額5万円(年間60万円)の納付金を納める義務が生じます。 これは罰金ではなく、雇用に伴う企業間の経済的負担を調整するための制度ですが、企業にとっては直接的なコスト増となります。 - 行政指導と企業名公表
雇用状況が著しく改善されない場合、ハローワークから「障害者雇用雇入れ計画」の作成を求められます。 計画の適正な実施がなされないケースでは、最終的に厚生労働省によって「企業名の公表」が行われます。 これは企業において、取引先や消費者からの評価や採用ブランディングにおいて致命的なダメージとなります。
達成・推進企業には調整金・報奨金ももらえる
一方で、基準を超えて障害者雇用を推進している企業には、国から金銭的な支援が行われます。
- 障害者雇用調整金
常用雇用労働者100人超の企業で、法定雇用率を超えて障害のある方を雇用している場合、超過人数1人につき月額2万9千円が支給されます。 - 報奨金
常用雇用労働者100人以下の企業でも、一定数(各月の雇用障害者数の年度合計が48人)を超えて雇用している場合、超過人数1人につき月額2万1千円が支給されます。
これらの制度に加え、職場環境の整備や定着支援を目的とした各種助成金制度も存在します。 上手く活用することで、初期投資のコストを抑えながら体制構築を進めることが可能です。
参考:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)|障害者雇用納付金制度について
義務対応を「自社の組織力強化」に繋げるために
・罰則回避だけを目的とした「数合わせの採用」はミスマッチと早期離職を招く
・既存業務を適切に切り出すことで、既存社員の残業削減や生産性向上が期待できる
・障害者雇用はコストではなく「組織全体の工数削減と生産性向上」の機会と捉えるべき
障害者雇用を単なる「法律への対応」で終わらせない
法定雇用率の達成だけを目的とした、ある種の数合わせ的な採用は、高い確率でミスマッチを引き起こし、結果として企業と労働者の双方にとって不幸な結果を招きます。
罰則回避を焦るあまり、現場の受け入れ体制や業務内容が曖昧なまま採用を進めると、入社後に「任せる仕事がない」「現場の負担が増える」といったトラブルに直面します。
IT業界のA社は、初めての障害者雇用でIT系の知見を持つ方の採用を進めました。しかしご本人の自己理解不足と、現場の受け入れ体制の未整備という2つの要因が重なって、わずか2ヶ月で早期離職という結果に。社内には「障害者雇用は難しい」という空気だけが残ってしまいました。A社にとっては、スキルや経歴よりも、自社の業務の棚卸しとご本人の特性理解が最優先の採用要件であると痛感された経験だったそうです。
業務の棚卸しと切り出しがもたらす副次的メリット
先のA社は、当社の支援のもと、次の採用に向けた体制を丁寧に整えることにしました。 現場ヒアリングによる業務の切り出し、ご本人の特性に合わせた業務設計、受け入れ部署への障害理解研修 という3つのステップを順を追って踏んだのです。 その結果、入社された方は安定して業務に取り組み、職場の残業時間削減にも貢献。 社内の空気は「次はうちの部署でも受け入れたい」という前向きなものへと変わっていきました。
この事例が示すように、障害者雇用を成功させる鍵は、既存の業務を細分化し、障害のある方に任せられる業務を「切り出す」プロセスにあります。 現場にあるノンコア業務をうまく切り出せば、以下のような会社全体の組織力強化も狙うことができます。
- 既存社員のコア業務への集中
これまで営業や専門スタッフが片手間で抱えていたデータ入力、資料の封入、システムへの登録といった定型業務を切り出すことで、既存社員は売上に直結するコア業務に集中できるようになります。 - 業務プロセスの可視化と効率化
業務を切り出してマニュアル化する過程で、属人化していた業務プロセスが整理されます。 「本当にこの手順は必要なのか?」といった見直しが進み、組織全体のオペレーションが効率化されます。 - 残業時間の削減
定型業務がスムーズに回ることで、部署全体の残業時間の削減に貢献し、働き方改革の推進にも繋がります。
このように、業務の切り出しは「障害のある方のための仕事作り」ではなく、「組織全体の工数削減と生産性向上」の絶好の機会なのです。
法対応に向けた実務ステップと、エージェント活用術
・社内で独力で業務切り出しから定着支援までの全てを回すのは難易度が高い
・専門知識と人的リソースの不足を補うには、外部の伴走者が有用
・体制構築から採用、定着までを「かべなし」がワンストップで支援
採用から定着まで、人事担当者が直面する実務の「壁」
障害者雇用を推進するにあたり、採用・労務を兼任する人事担当者は、多くの実務的な「壁」に直面します。
- ノウハウ不足による体制構築の遅れ
どのような業務を切り出せばよいか、社内の理解をどう醸成するか等、初期の体制構築に膨大な時間がかかります。 - 採用手法のミスマッチ
求人サイトに掲載してエントリーを待つだけでは、自社が求めるスキルや適性を持った人材と出会うまでに時間がかかり、歩留まりが悪化しがちです。 - 入社後の定着フォローの限界
入社後も定期的な面談や、現場との調整、体調不良時の対応など、人事担当者の工数は増大し続けます。
これらを独力でカバーしようとすると、他の業務を圧迫しプロジェクト全体が行き詰まるリスクが高まります。
体制構築支援
貴社の現場に入り込み、ノンコア業務の洗い出しとマニュアル化を代行します。 「任せる仕事がない」という最初の課題の解消に尽力します。
採用マッチング
切り出した業務を遂行できる「スキル」や「適性」を第一に考えたマッチングを行い、現場の即戦力となる人材をご紹介します。
定着支援
入社後も専門スタッフが定期的に介入し、本人と現場の間に立ってコミュニケーションのすれ違いを解消します。
障害者雇用は、決して「法律への義務対応」というコストではありません。 正しい手順で進めれば、組織の生産性を上げる投資となります。
「うちの会社で何ができるかわからない」「現場に負担をかけたくない」とお悩みの人事担当者様は、ぜひ一度「かべなし」にご相談ください。 貴社の現状に合わせた無理のないスタートプランをご提案いたします。
障害者雇用促進法に関するよくあるQ&A
Q. 法定雇用率2.7%への引き上げに向けて、いつ頃から準備を始めるべきですか?
A. 業務の洗い出し、社内体制の構築、採用活動、そして入社後の試用期間などを考慮すると、採用成功までには平均して半年から1年程度のリードタイムが必要です。 今すぐ取り組める準備として 、まずは各部署におけるノンコア業務(定型作業)の簡易的なヒアリングや、経営層との法定雇用率対応に向けた予算・採用方針の目線合わせをおすすめします。 これらを事前に進めておくことで、本格的な体制構築や業務の切り出しをスムーズに進行できますよ。
Q. 社内を見渡しても、障害のある方に切り出せるような定型業務が見つかりません。どうすればよいですか?
A. 一見すると複雑に見える業務でも、プロセスを分解していくと「準備作業」や「事後処理」など、切り出し可能な部分が必ず潜んでいます。 自社内だけでは客観的な視点を持ちにくいため、外部コンサルタントの着眼点で業務の棚卸しを行うことで、新たなポジションを創出できるケースが多々あります。
持続可能な障害者雇用をめざして
障害者雇用促進法は、企業に対して障害を持つ方の雇用義務を定めていますが、その本質は「多様な人材が活躍できる組織づくり」にあります。
法令を遵守しながら、経営や現場に過度な負担をかけず、障害者雇用を「組織の生産性向上」の機会へと昇華させる。 そのためには、 体制構築➔採用➔定着までをワンストップで伴走支援するサービスの活用 がおすすめです。
「何から手をつけてよいかわからない」「法改正に備えたい」とお悩みの人事担当者様は、ぜひ一度「かべなし」の伴走支援をご検討ください。 貴社の現状に合わせた最適なプランをご提案いたします。
就労移行支援事業所の管理者経験者監修のもと、正しい法令知識と採用・定着などの実務に役立つ情報を発信中です。企業と障害のある方をつなぐ立ち位置で、双方がWin-Winとなる情報提供を心がけています。