障害者雇用の推進において、採用や環境整備にかかるコスト負担に不安を抱える人事・採用担当者の方は多いのではないでしょうか。
本記事では、コスト負担を軽減するための「障害者雇用に関する助成金」を目的別に一覧で解説し、制度活用における実務上のハードルとその解決策を提示します。これをお読みいただければ、自社に適した助成金制度と、確実な定着に向けた体制構築のステップがわかります。
・障害者雇用における各種助成金制度の概要
・採用・定着・環境整備など目的別の助成金一覧と要件
・助成金申請・受給における実務上の注意点
・採用から定着までを確実にするための体制構築の選択肢
障害者雇用の助成金制度の概要
障害者雇用の取り組みを始める際、多くの企業が直面するのが「コスト」の問題です。ここでは、企業側の金銭的な負担を軽減し、無理のない雇用推進を後押しするために設けられている公的な助成金制度の基本的な概要について解説します。
・助成金制度は、企業の金銭的負担を軽減し、雇用を後押しする目的で設けられている
・補助金とは異なり、要件を満たせば原則として受給が可能である
・法定雇用率の引き上げを背景に、企業の雇用拡大傾向が続いている
助成金制度が設けられている背景と目的
障害のある方を雇用する際、企業は業務の切り出しや職場環境の整備、現場のサポート体制構築など、さまざまな対応が求められます。
- 初期費用の負担軽減
スロープの設置や専用ソフトウェアの導入など、設備投資にかかるコストを軽減します。 - ランニングコストの補填
業務習得までの期間における生産性の変動や、サポート人材の配置にかかる人件費をカバーします。 - 雇用の質の向上
単なる採用だけでなく、長期的な定着やキャリアアップを促進するためのインセンティブとして機能します。
助成金と補助金の性質の違い
公的な支援制度には「助成金」と「補助金」があり、それぞれ性質が異なります。
厚生労働省が管轄するものが多く、雇用保険の適用事業所などの 一定の要件を満たし、正しい手続きを行えば原則として受給可能 です。
経済産業省や自治体が管轄するものが多く、あらかじめ予算や採択件数が決まっているため、 要件を満たしていても審査によって不採択となる場合 があります。
企業の雇用拡大の傾向と助成金活用の必要性
法定雇用率の段階的な引き上げ(2026年7月には2.7%へ引き上げ予定)に伴い、企業における障害者雇用は着実に進んでいます。
厚生労働省の「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障害のある方の数は70万4,610 人(前年比4.0%増)となり、過去最高を更新しています。
雇用の対象となる企業枠が広がる中、企業がコンプライアンスを遵守しつつ無理のない体制構築を進めるためには、助成金制度の適切な活用が必要不可欠です。
助成金を受給するための「企業」と「人」の共通条件
助成金を活用するためには、申請する企業側と、雇用される障害のある方の双方が一定の要件を満たしている必要があります。ここでは、各種助成金に共通して求められる基本的な対象条件について解説します。
・企業は雇用保険適用事業所であり、労働関係法令を遵守している必要がある
・対象となる方は、原則として障害者手帳等を所持していることが求められる
・制度によっては週20時間以上の短時間労働者(パートタイマー等)も対象となる
助成金の受給対象となる企業(事業主)の要件
多くの助成金において、企業側には以下のような共通の要件が定められています。
- 雇用保険の適用事業所であること
- 支給のための審査に協力し、必要な書類を整備・保管していること
- 過去に不当な解雇など、労働関係法令の重大な違反がないこと
- 労働保険料の滞納がないこと
助成金の対象となる障害者の範囲
対象となる障害のある方の要件は制度ごとに異なりますが、基本的には以下が基準となります。
- 障害者手帳等の有無
身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれかを所持していること(※一部、統合失調症などの診断書で対象となる制度もあります)。 - 労働時間
原則として雇用保険の一般被保険者として雇用されることが求められますが、制度によっては短時間労働者(パートタイマー等)であっても対象となります。 - ハローワーク等からの紹介
特定求職者雇用開発助成金などは、ハローワークや民間の職業紹介事業者等の紹介で雇い入れることが条件となります。
【目的別】障害者雇用の助成金一覧まとめ
企業が抱える課題やフェーズに合わせて、適切な助成金を選択することが実務上の第一歩となります。代表的な助成金を目的別に整理しました。
| 目的 | 助成金名称 | 主な対象・概要 | 申請先 | |---|---|---|---| | 採用時 | 特定求職者雇用開発助成金 | ハローワーク等の紹介で継続して雇用する前提で雇い入れる場合 | 労働局、ハローワーク | | | 障害者トライアル雇用助成金 | 原則3〜12か月間雇用し、適性を見極めた上で常用雇用への移行をめざす場合 | 労働局、ハローワーク | | 定着・キャリアアップ時 | 障害者雇用安定助成金 | 中途障害等により職場復帰や職務転換が必要な方への支援を行う場合など | JEED | | | キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース) | 障害のある有期雇用労働者を正規雇用労働者等へ転換した場合 | 労働局、ハローワーク | | 環境整備・介助時 | 障害者作業施設設置等助成金 | 障害のある方が働きやすいように作業施設や設備を設置・整備する場合 | JEED | | | 障害者介助等助成金 | 業務遂行に必要な介助者の配置や、相談窓口の委嘱等を行う場合 | JEED | | | 職場適応援助者助成金 | ジョブコーチによる支援を実施する場合 | JEED |
新たに障害者を採用する際に活用できる助成金
障害のある方を新たに雇い入れるフェーズでは、採用活動や初期の受け入れ体制構築にコストがかかります。この章では、新規採用時に企業の金銭的負担を軽減し、雇用を後押しするための代表的な助成金制度を紹介します。
・特定求職者雇用開発助成金は、継続雇用を前提とした雇い入れで支給される
・トライアル雇用助成金は、ミスマッチを防ぐための試行雇用期間に対して支給される
・どちらもハローワーク等からの紹介が要件となる点に注意が必要である
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース等)の概要
障害のある方や高齢者など、就職が特に困難な方をハローワークや民間の職業紹介事業者の紹介により、雇用保険の一般被保険者として継続して雇い入れる事業主に対して支給される助成金です。採用にかかる初期のランニングコストを補填する目的で広く活用されています。
特定求職者雇用開発助成金の支給額と受給要件
- 受給要件
対象となる方をハローワーク等の紹介で雇い入れ、継続して雇用することが確実であること。 - 支給額の目安
対象となる方の障害の程度や労働時間、企業規模によって異なります。
| 対象者 | 最大支給額 | 支給期間(中小企業の場合) | |---|---|---| | 重度身体・知的障害者、精神障害者 | 240万円 | 3年間(半年ごとに分割支給) | | 重度を除く身体・知的障害者 | 120万円 | 2年間(半年ごとに分割支給) | | 短時間労働者(週20時間以上30時間未満) | 80万円 | 2年間(半年ごとに分割支給) |
参考:厚生労働省|特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース等)の概要
障害のある方を原則3ヶ月間の有期雇用契約で試行雇用(トライアル雇用)し、適性や業務遂行の可能性を見極めた上で、無期雇用への移行を目指す制度です。採用におけるミスマッチへの不安を軽減し、実務を通じた相互理解を深めるために有効です。
トライアル雇用は基本3ヶ月間ですが、テレワークの場合は6ヶ月、精神障害のある方は最長12ヶ月まで延長できます
トライアル雇用助成金の支給額と受給要件
- 受給要件
ハローワーク等の紹介により、対象者を一定期間のトライアル雇用として雇い入れること。 - 支給額の目安
| 対象者 | 月額最大支給額 | 最長支給期間 | |---|---|---| | 一般の障害のある方 | 4万円 | 3ヶ月 | | 精神障害のある方 | 8万円(最初の3ヶ月)、4万円(その後の3ヶ月) | 6ヶ月 ※要件あり |
参考:厚生労働省|トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース)
障害者の職場定着やキャリアアップを支援する助成金
採用後の長期的な定着や、中途で障害を負った社員の職場復帰、あるいは非正規雇用から正規雇用への転換など、入社後のキャリアを支えるフェーズでも活用できる制度が存在します。ここでは定着やキャリアアップに焦点を当てた助成金について解説します。
・障害者雇用安定助成金は、中途障害者の職場復帰等の支援に活用できる
・キャリアアップ助成金は、有期雇用から正規雇用への転換を後押しする
・中途障害者等技能習得支援助成金は、新たな業務習得のための研修費用を支援する
障害者雇用安定助成金の概要
障害のある方の職場定着を促進するため、柔軟な働き方の導入や支援体制の整備を行った事業主に対して支給される助成金です。
※令和6年度の制度見直しにより、各種コースが再編・統合されています。例えば、中途障害などにより休職している労働者が職場復帰するために必要な職場環境の整備や配置転換を行った場合に活用できるコースなどがあります。
参考:厚生労働省|障害者雇用安定助成金(障害や傷病休職からの職場復帰支援コース)
キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)の概要
障害のある有期雇用労働者(契約社員など)を正規雇用労働者(正社員)等へ転換した事業主に対して支給される助成金です。障害のある方のモチベーション向上や、長期的なキャリア形成を支援する体制構築に役立ちます。
支給には、就業規則への転換制度の規定や、転換後の賃金要件などを満たす必要があります。
中途障害者等技能習得支援助成金の概要
在職中に障害を負った(中途障害)従業員が、職場復帰や配置転換後に必要となる新たな知識や技能を習得するための研修を実施した事業主に対して支給されます。
外部の教育訓練機関等での研修受講費用などを一部助成することで、能力開発と業務のミスマッチ解消を支援します。
職場環境の整備や介助者の配置に活用できる助成金
障害のある方が安全かつスムーズに業務を遂行するためには、ハード面のバリアフリー化やソフト面のサポート体制構築が不可欠です。ここでは、施設整備や人的サポートの導入にかかるコストを軽減する助成金について解説します。
・障害者作業施設設置等助成金は、物理的なバリアフリー化や専用設備の導入を支援する
・障害者介助等助成金は、手話通訳者や職場介助者の配置費用を助成する
・職場適応援助者(ジョブコーチ)助成金は、専門的な定着支援の導入に有効である
障害者作業施設設置等助成金の概要
障害のある方が就労する上で生じる物理的なハードルを解消するため、作業施設や設備の設置・整備を行った事業主に対する助成金です。
- 対象となる費用の例
スロープの設置、車いす対応トイレへの改修、視覚障害者向けの音声読み上げソフトの導入、聴覚障害者向けの警報ランプの設置など。 - 注意事項
原則として、施設の設置等の前にJEEDへの計画の提出と認定が必要です。
障害者介助等助成金の概要
業務の遂行にあたり、人的なサポートが必要な場合に、介助者等の配置や委嘱を行った事業主を支援する制度です。
- 対象となる費用の例
職場介助者の配置、聴覚障害者向けの業務に関する手話通訳担当者の委嘱、職場支援員や職場復帰支援者の配置など。 - 活用メリット
障害の特性に応じた適切なサポート体制を構築する際の工数・費用負担を軽減します。
職場適応援助者(ジョブコーチ)助成金の概要
障害のある方が職場にスムーズに適応できるよう、ジョブコーチ(職場適応援助者)による専門的な支援を実施した事業主に支給されます。
- 企業在籍型ジョブコーチ
自社の従業員に所定の研修を受講させ、社内ジョブコーチとして配置し、支援計画に基づいた定着支援を行った場合に助成の対象となります。 - 導入の効果
現場のコミュニケーション改善や、業務指示の出し方の調整など、実務に即した定着管理に直結します。
参考:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)|障害者雇用納付金制度に基づく助成金
助成金の申請・受給における注意点とよくある課題
助成金は企業の強力な後押しとなりますが、制度の複雑さゆえに「申請したのに受給できなかった」というケースも少なくありません。ここでは、助成金を活用するにあたって人事が直面しやすい実務上のハードルや注意点について解説します。
・多くの助成金は「一定期間の定着」が受給の前提となる
・申請スケジュールの管理や事前計画の提出漏れに注意が必要である
・制度活用ありきではなく、ミスマッチを防ぐ採用と定着支援の体制構築が先決である
受給要件となる継続雇用の難しさ
助成金の受給において最も大きなハードルは、対象者を一定期間継続して雇用し、定着させなければならない点です。
例えば、特定求職者雇用開発助成金は半年ごとに支給時期が分割されており、その期間に自己都合等で離職してしまった場合は、以降の助成金は受給できません。制度の活用を計画していても、定着管理がおろそかになれば見込んでいた資金を得られないリスクがあります。
実務上の失敗談
以前、ある企業で特定求職者雇用開発助成金の受給を前提とした予算を組み、障害のある方を採用したケースがありました。しかし、採用を急ぐあまり、現場の受け入れ体制の整備や業務の適切な切り出しが不十分なまま入社日を迎えてしまいました。結果として、ご本人が職場環境に適応できず、入社後わずか2ヶ月で早期離職となってしまいました。助成金の受給要件を満たせず資金が得られなかっただけでなく、採用や教育にかけた現場の工数も無駄になり、双方にとって不幸な結果となりました。この経験から、助成金の申請以前に、ミスマッチを防ぐ選考と、入社後の丁寧な定着支援体制の構築がいかに重要であるかを痛感しています。
支給申請のスケジュール管理と手続きの煩雑さ
助成金の申請手続きは、人事担当者にとって大きな実務負担となる傾向があります。
- 厳格な申請期限
支給対象期間が終了した翌日から、決められた期間内(例:2ヶ月以内)に申請書類を提出しなければならず、期日を一日でも過ぎると受給できません。 - 正確な帳簿の提出
出勤簿(タイムカード)や賃金台帳など、労働基準法に則った正確な帳簿の提出が求められます。
採用前の事前相談・計画届が必要なケースの確認
施設整備やジョブコーチに関する助成金など、多くの制度では事前の計画届の提出と認定が必須条件となっています。
計画の認定を受ける前に設備の改修工事を始めてしまったり、機器を購入してしまったりすると、後から申請しても助成金の対象外となってしまいます。採用計画と連動した早めのスケジュール立案が必要です。
障害者雇用の助成金に関するQ&A
Q. 助成金の申請手続きは、社会保険労務士などの専門家に依頼すべきでしょうか?
A. 自社の人事労務リソースが限られている場合、専門家への依頼は有効な選択肢です。書類作成の工数削減や期日管理のリスクを軽減できます。ただし、書類上の手続きだけでなく、現場での定着管理自体は自社で行う必要がある点に留意してください。
Q. トライアル雇用期間終了後、本採用(無期雇用)に至らなかった場合、助成金はどうなりますか?
A. トライアル雇用期間中の要件(出勤日数等)を満たしていれば、その期間分のトライアル雇用助成金は受給可能です。ただし、その後の特定求職者雇用開発助成金等への移行はできません。
助成金の活用と定着を両立させる「伴走型支援」の活用術
助成金の受給要件の多くは一定期間の定着を前提としていますが、これを自社のみで完結させることは容易ではありません。ここでは、助成金の活用と確実な職場定着を両立させるための体制構築の選択肢についてお伝えします。
・独力で業務の切り出しから定着支援までを全て回すのはリスクが高い
・専門知識と人的リソースの不足を補うため、外部機関を「実務の伴走者」として活用することが有効である
・体制構築から採用、定着までをワンストップで支援する「かべなし」の活用が解決策となる
自社対応の限界と多くの企業が直面するリスク
人事部門に十分な人員がおり、障害者雇用に関する専門知識を持つ担当者を専任で配置できる企業であれば、助成金の申請から定着支援までを自社内で完結させることも可能です。しかし、多くの企業においては、障害者雇用の人事担当者が中途・新卒採用や労務管理と兼任しているケースが一般的です。
人事が独力で業務の切り出しから現場のフォロー、入社後の定期面談までを全て回すことは実務上難しく、結果として早期離職を招き、助成金も受給できないという悪循環に陥りやすくなります。
実務負担を軽減し定着率を高める「かべなし」の伴走支援
専門知識と人的リソースの不足を補い、確実な定着を導くためには、外部機関を頼ることも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。
障害者雇用の体制構築から定着までを包括的に支援するサービス「かべなし」は、単なる人材紹介ではなく、以下の3ステップで企業様の実務をワンストップで支援します。
+----------+ ➔ +----------+ ➔ +----------+ | [⚙️歯車アイコン] | | [🤝握手アイコン] | | [💬会話アイコン] | | STEP 1 | | STEP 2 | | STEP 3 | | 体制構築支援 | | 採用マッチング | | 定着マネジメント | | 現場の業務を | | スキルを重視した | | 定期的な面談で | | 切り出し・可視化 | | 適切な人材紹介 | | 早期離職を防止 | +----------+ +----------+ +----------+ ※【図解指示】:「かべなし」の伴走型支援3ステップ (図解イメージ:左から右へのフロー図。「STEP1. 体制構築」「STEP2. 採用マッチング」「STEP3. 定着支援」の3つのカード。各カードの上にビジネスアイコン(歯車、握手、会話など)を配置したシンプルな構成)
- 体制構築支援
貴社の現場に入り込み、ノンコア業務の洗い出しとマニュアル化を代行します。「任せる仕事がない」という最初の課題の解消に尽力します。 - 採用マッチング
切り出した業務を遂行できる「スキル」や「適性」を第一に考えたマッチングを行い、現場の即戦力となる人材をご紹介します。 - 定着支援
入社後も専門スタッフが定期的に介入し、本人と現場の間に立ってコミュニケーションのすれ違いを解消します。
障害者雇用は、決して「法律への義務対応」というコストではありません。正しい手順で進めれば、組織の生産性を上げる投資となります。 「うちの会社で何ができるかわからない」「現場に負担をかけたくない」とお悩みの人事担当者様は、ぜひ一度「かべなし」にご相談ください。貴社の現状に合わせた無理のないプランをご提案いたします。
就労移行支援事業所の管理者経験者監修のもと、正しい法令知識と採用・定着などの実務に役立つ情報を発信中です。企業と障害のある方をつなぐ立ち位置で、双方がWin-Winとなる情報提供を心がけています。